過去の想い出と未来への想像
いとうせいこうさんの想像ラジオという小説を、ようやく読み終えました。
- 作者: いとうせいこう
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2015/02/06
- メディア: 文庫
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陽気な語り口で展開されるこのお話は、実は津波で亡くなった人が主人公になっていました。
災害で自分が亡くなるなんて、誰が予想するでしょうか。
きっと、まだやり残したことがあって、会いたい人がいて、生きたいと願って亡くなっていった人が大半でしょう。
そして、残された人々もまた、明日も一緒にいられると思っていた筈です。
私も数年前に突然祖父を失い、以来何度も思い出したり、問いかけたりしてしまいます。
作中に、こんな一節がありました。
生者と死者は持ちつ持たれつなんだよ。
決して一方的な関係じゃない。
どちらかだけがあるんじゃなくて、ふたつでひとつなんだ
生きている者が、かつて生きていた者の話をしなければ、思い出さなければ、その者は今も昔も居なかったことになる。
確かにそうかもしれない、と思いました。
歴史上の人物だって、どんなに凄いことを成し遂げても知らない人の中には存在しない。
亡くなった人を何度も思い出すのは、後ろ向きのような気がしてしまうけれど、“ふたつでひとつ”ならば、死者とともに前に進んでいけるんだよなと思いました。
死者が語れるのは、生きていた時の話だけです。
それでも、生者は死者に語りかけて、聞こえない声に耳を傾けていいのだと思いました。
私はまたときどき、無口な祖父に話しかけたいと思います。